
応援メッセージ > 秋田 喜代美 【東京大学大学院 教育学研究科 教授】
ブックスタートにまつわるさまざまな出来事の記憶が私の心には刻み込まれています。2000年7月、英国バーミンガム市の保健センターでブックスタートを初めて見せていただいた時の親子の姿、お母さんのひざに抱かれた赤ちゃんがじっと絵本を見つめる姿、保健師さんが一人一人に丁寧に目をかけ、声をかけ、手をかけて絵本を手渡していく姿が私の目に焼きついています。様々な人種や職種の人が赤ちゃんと絵本を真ん中につながっていくことを実感しました。ブックスタートは子どもの幸せだけではなく、家族、そして地域の人々の幸せにつながっていくことを確信しました。
翌年、試験実施を行った杉並区のブックスタートの会場で、司書の方が赤ちゃんに絵本を見せた瞬間に、4ヶ月の赤ちゃんがきらきらした目で絵本を見つめ、その赤ちゃんの表情をお母さんが驚きを持って見つめた時の美しい表情が心に残っています。 私のブックスタートの原風景です。
それから早や6年。日本全国で、ブックスタートは多くの心ある人の手によって育てられ、またアジアの国々にまで広がっています。それは、赤ちゃんと絵本との出会いに、何ごとにも変えられない出来事の記憶を心に刻まれた人たちの、出会いの連鎖、絆の連鎖であると思います。長田弘さんが「活字離れとは本にまつわる出来事の記憶がなくなること」と書いておられました。ブックスタートは親と子の間に、絵本を介して生まれる幸せなひととき、心のどこかに残る出来事を作りだす活動と言えるでしょう。
思い出に残る瞬間。それは親も赤ちゃんも「今ここ」をその人らしくまさに生きた時間です。降り積もるようにこの経験が積み重なり、30年後、40年後、この赤ちゃんたちが親となった時にも、またそこに赤ちゃんと絵本との出会いが続くような経験であってほしいと願っています。
ブックスタートはつねに「今ここ」を大切にする始まりの物語、ネバーエンディングストーリー。だから初心の精神を忘れないブックスタートであり続けてほしいと思います。